大好きなのだがふだんはほとんど聴くことなく、特別な機会にだけ聴くアルバムがある。1枚挙げれば、マル・ウォルドロンの『レフト・アローン』。親しかった友人知人が天に昇っていったときにだけ聴く。
ジャズ・ファンなら知らぬ人はいない有名な1作だが、僕がジャズを聴き始めた頃は、手にすることはほとんど不可能なディスクだった。ベツレヘムというマイナー・レーベルから出たことも手伝って、市場からいち早く消え、「幻の名盤」と呼ばれた。
僕がこれを(といっても、いまはもう手元にないアナログディスクだが)入手したのは、新宿にあった「トガワ」という中古レコード店でだった。都内のあるジャズ喫茶がつぶれ、レコードのコレクションがこの店に売られた。その中の1枚がこれ。ジャケットはぼろぼろで煙草のやにだらけ。中身の赤いディスク(東芝はよくこの色のレコードを作っていた)も、傷だらけだった。
値段は500円だった。
最晩年に伴奏をつとめたマルがビリー・ホリデイの死を悼んで録音した作品。標題作「レフト・アローン」が何と言っても素晴らしい。極論すれば、他の曲はいらない。この1曲で充分なのだ。
せつせつと歌うジャッキー・マクリーンのアルト・ソロが、まずは聴く者の心を奪う。続くマルの静かなピアノ・ソロが、これまたたとえようもなく美しい。まさに鎮魂の歌。
今年もまだ半年未満だが、何人かが逝った。流れるマルのソロを聴きながら、その人たちの顔が次々に浮かぶ。

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