寺田寅彦はいうまでもなく漱石の弟子にあたる人であって、科学者なのに俳句もよく詠んだ。俳句での筆名は牛頓。牛頓=ニュートン、ということらしい。
そんな牛頓先生が遺した一句。
「中庭や小窓に雨の秋海棠」
一見して、凡庸。だが、いい句だなあと思う。秋海棠は地味な植物で、花も華麗ではない。しかし、日陰にひっそりと咲く花にはえもいわれぬ味がある。それを小窓越しに見ているというのがいい。しかも、秋海棠は雨にうたれている。
秋海棠の中国での呼び名は断腸花。荷風散人の号はここから来た。
秋海棠については、個人的な思い出もある。
結婚した直後だから1977〜78年頃だろうか。家内とは立花実さんの『ジャズへの愛着』が縁で知り合った間柄なので、亡き立花さんの仙台の実家を訪ねた。ご母堂の立花重子さんが迎えてくださった。
広々としたリビングでしばしの歓談。そのあと、仏間に案内された。床の間があった。大ぶりの鉢がそこにあり、見事な枝ぶりの樹木が入れてあった。それが秋海棠だった。秋海棠という植物名も、そのときはじめて知った。
秋海棠の名を聞くと、いまもあのときの情景と立花重子さんの穏やかな笑顔が思い浮かぶ。その後、立花重子さんとは年賀状をやりとりするだけのおつきあいだったが、いまから10年ほど前だろうか、100歳で物故されたという。

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