松島駿二郎『ケルト紀行』という1冊を読む。アイルランド〜ウェールズ〜フランスへとケルトを探索した旅の記録。
アイルランドへ行った人がほとんど例外なく口にする一言がある。「アイルランドで飲むギネスは、日本で飲むそれとは別物だ」
この本にもそいつが出てくる。
「わたしはためらわず、ギネスのオン・タップを注文した。オン・タップとは樽から直接腕木の付いたポンプで注いでくれるということだ。つまり、生ギネスである。……それがわたしの本物のギネスとの出会いの瞬間だった。本物のギネス! それはびっくりマーク(感嘆符)付きで記述するのが正しい。……今まで日本をはじめ世界各地で飲んできたギネスはギネスではない」
僕もまたギネスが好きだが、この種の記述にふれるたびにアイルランドへ行きたくてたまらなくなる。アイリッシュ・ハープをあしらったギネスのロゴは同じでも、東京のアイリッシュ・パブではだめなのだ。
その機会はもうありえないだろうが。
下北沢「宮鍵」に3人が集まった夜
ギネスで思い出す店がある。かつて下北沢にあった酒場「宮鍵」。おでんがメインの飲み屋なのに、ギネスが置いてあった。常連の一人にギネス好きの大学教授がいて、その人の注文で置くようになったと聞いた。
といって僕自身はこの店ではギネスは飲まなかったのだが、店そのものの思い出は深い。27年前に逝った松平維秋に教わった店であり、いつも彼と行った店だからだ。
1999年10月末のある夜が記憶の中から浮かんでくる。10月15日に逝った松平さんを偲んで、同じ下北沢で酒場「いーはとーぼ」を営む今沢裕、松平夫人だった洋子さんという、ふだんは一緒に飲むことのない顔ぶれで集まった。
話ははずまなかった。3人揃って黙々と飲んだ。僕自身についていえば、杯を重ねるうちに涙が出て来た。涙はとめどなく流れた。そして泥酔した。
そんな夜だった。
「宮鍵」は2019年8月末に店じまいしている。


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