2026年5月11日月曜日

板橋文夫の「てぃんさぐぬ花」

 


 3年前の引っ越しの際に処分したせいもあって、わが家にあるCDは少ない。ざっと見て100枚といったところか。音楽評論家などとうの昔に廃業しているということもあるが、実は現役の頃も所有しているレコードは少なかった。終電に間に合わなくなってわが家に泊めた『毎日グラフ』の編集者が「いやあ、たったこれだけでよく音楽評論ができますねえ」とあきれたのは、1975年頃だったか。

 そんな少ないCDなのに、もらいものの悲しさ、あまり数多く聴いていないものがある。その1つ、『板橋文夫/お月さま』(アカバナ 1997年)がなぜか気になりだして、久々にじっくり聴いた。感じるものがたくさんあった。


 これはオフノートの神谷一義君がライナーノーツの原稿料の代わりにくれたうちの1枚だと思うが、彼のホームタウンでもある沖縄での録音。板橋文夫は日頃のジャズを半ば放棄して、主に沖縄の歌をストレートに弾いている。大工哲弘が歌で加わった曲も数曲ある。

 全17曲あるその中での出色と思えるのが、「てぃんさぐぬ花」。ピアニカによる演奏とピアノによる演奏の2つのバージョンが収録されている。どちらも原曲のメロディーを素直に弾いているのだが、味わいはそれぞれ異なる。共通しているのは、要は美しさだ。


 聴いていて、71年のある夜のことをふと思い出した。その年にオープンした渋谷BYG。オープニングイベントは、地下でのジャズだった。初日は山下洋輔さん、2日目がこの板橋文夫さん。通路の狭さのために仕方なく入れた家庭用のブラザーのピアノのペダルは初日に1つ、2日目に1つへし折られた。国立音大出身の剛力ピアニスト2人のおそろしさよ。

 そんな板橋さんが、このアルバムでは抒情に徹している。それらの演奏は、弾くというより、ピアノを通してつぶやいているような感じがする。大工さんが加わると、つぶやきがそのまま歌に昇華するといった印象になる。


魔除けにされる赤い花

 「てぃんさぐぬ花」とは、ホウセンカのことだ。沖縄では、赤いホウセンカの花から汁をしぼり、これを爪に塗って魔除けにするらしい。どうせなら大工さん入りの歌バージョンも入れればよかったのにと思うが、こればかりはどうにもならない。

 ちなみに、YouTubeには夏川りみによる歌唱がある(https://www.youtube.com/watch?v=QUeiw3T0Z9Y&list=RDQUeiw3T0Z9Y&start_radio=1)。三線の弾き語りで歌われていて、これがまた素晴らしい。


 ちなみに、元歌はこんな歌詞が歌われる。


  宝玉(タカラダマ)やてぃん

  磨(ミガ)かにば錆(サビ)す

  朝夕(アサユ)肝(チム)磨(ミガ)ち

  浮世(ウチユ)渡(ワタ)ら

  ───

  宝石も

  磨かなくては錆びてしまう

  朝晩心を磨いて、

  世の中を生きていこう。


0 件のコメント:

コメントを投稿