2026年4月28日火曜日

静かなバーめざして

 


 古くからの友人と酒場で会う約束をした。「もう満足に歩くことができない。無理だ」と一旦は断ったのだが、敵は「這ってでも出て来い」という。じゃあ、這っていくかと返事した。

 近々のことではなく、そのうちにということなのだが、どこのどの酒場がいいだろう……と、しばし考える。これがなかなか楽しい。

 僕がこの世で一番好きだった酒場は四谷3丁目のバー「司」で、地下の店だったが、階段を降りていくときからうきうきしたものだ。階下に着地すると、そこは木の調度一色。厚手の木材を磨き上げたカウンターが、なかでも心地よかった。談論風発する酒場ではなく、会話は控え目に、静かに酒を楽しむ場所だった。

 だが、「司」はもうない。


静かなバーがいい

 『永井龍男/東京の横丁』にも酒場の話が出てくる。


「俗人と云うものは、つまらぬことを連想する。二僧が徳利の酒を酌み交す仕草をしげしげ眺めているうちに、若い自分に通った酒場の雰囲気を私は思い出した。素性の知れた銀座の酒場は、どこも静かなもので、バーテンが棚の洋酒の瓶を取り、カウンターでグラスに注ぐ洋酒の音が、かなり遠いテーブルに居ても、聞えてきたような気がする。それが、酒場の持つ色気に通じるかも知れなかった」(「五百羅漢」)

 川越の五百羅漢を眺めていて心に浮かんだことの回想だが、これはとてもよくわかる。僕自身は、銀座の酒場にはさほど深い縁はない。だが、母親が勤めていた銀座のバーには何度か入ったことがあるし、それ以外でも、主に御馳走になる場として幾軒かの酒場に入ったことはある。

 そうして、銀座の酒場の特色はと考えると、答えは1つ。「静かさ」なのだ。そこに銀座ならではの空気がある。


 銀座ではないが、「司」も静かだった。レコード・プレーヤーがあって、音楽が鳴ってはいたが、ジョニー・ハートマンなどのごくごく静かで控え目なジャズ・ヴォーカルが主だった。これはむしろ静かさを引き立てる効果があった。

 といったことをつらつら考えていて、これは一度行ってみなければと思う酒場にWebでめぐりあったのは、この1月のある日のことだった。店の名はBAR ground line。店主の吉田健吾という人がnoteにかつて神保町にあったジャズ喫茶「響」のことを書かれていて、ネット検索でそこにたどり着いた。

 行くならここだな。

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