本人が亡くなったあとにその作品に出合うことになる作家がしばしばある。「インターネットから出た最初の本格歌人」と言われる笹井宏之はそんな1人。かれこれ13年前になるだろうか、多数のリクエストが集まったとかで再放送されたNHK-BSのドキュメンタリーをたまたま見て、そこに引用された短歌に心を奪われた。ジョン・レノン似の風貌のこの青年が、わずか26歳で急死したことも、そのときに知った。
歌集『ひとさらい』中の5首。
まばたきの数え方を忘れてしまった 鳥に静かに満ちてゆく潮
拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません
上空のコンビニエンスストアから木の葉のように降ってくる遺書
隣ではベートーベンに似た人が五の段からを暗記している
レシートの隅っこかじる音だけでオーケストラを作る計画
病床で書かれた歌だが
「15歳の頃から身体表現性障害という難病で寝たきりになり」とウィキに書かれているが(http://ja.wikipedia.org/wiki/笹井宏之)、これらの歌はそんな日常の中で書かれた。にもかかわらず、病者の翳りは薄く、透明でのびやかで、センス・オブ・ワンダーに満ちている。
歌集『ひとさらい』からもう5首。
からだにはいのちがひとつ入ってて水と食事を求めたりする
冬用のふとんで父をはさんだら気品あふれる楽器になった
野菜売るおばさんが「意味いらんかねぇ、いらんよねぇ」と畑へ帰る
すっぴんで星をつめたくしていたらひゅーんとおりてきた正義感
思い出せるかぎりのことを思い出しただ一度だけ日傘をたたむ
もう新作に出合えないのはやはり残念だが、彼の短歌はどんな歌手の歌よりも音楽よりも親しい友となった。ありがとう、笹井君。


0 件のコメント:
コメントを投稿